Shiny Academy

生成AI入門コース

~第3話 プロンプトとは何か~

前回のあらすじ

第2話では、従来型AIと大規模言語モデル(LLM)の違いを学んだ。従来型AIは分類や予測といった特定タスクに特化していて、用途ごとに別のAIを用意する必要があった。一方でLLMは自然言語の指示一つで幅広い作業に対応できる。トークン、コンテキスト、モデルという基本概念も整理して、神谷は「同じAIでも、伝え方しだいで出てくる答えが変わる」という入口に立った。今回はその「伝え方」そのもの——プロンプトを掘り下げていく。

神谷の初挑戦

神谷悠馬がノートPCでAIチャットに初めて仕事の指示を入力している場面

第3回の学習が始まる前に、神谷は西園寺から小さな課題を出されていた。「ChatGPTに何か仕事で使えそうなことを頼んでみて」というものだ。何でもいいから、まずは触ってみる。それが今回の宿題だった。

神谷は少し考えてから、まるやまマートの商品説明に使えないかと思い立ち、こう入力してみた。

神谷が入力した内容:「商品説明を書いてください」

AIからはすぐに返事が返ってきた。しかし、その内容は神谷の期待とは少し違っていた。どの商品のことなのか、誰に向けて書くのか、どんな雰囲気にしたいのか——AIには何ひとつ伝わっていなかったので、当然のように、架空の商品について一般的な紹介文が返ってきたのだ。

神谷の心の声うーん、商品説明を書いてくれたけど、これはうちの商品じゃないし、誰に向けた文章なのかもよく分からない。お願いだけして、必要な情報を渡していなかった——後輩に仕事を頼むときと同じだ。もっとちゃんと伝えないと、AIだって動きようがないんだろうな。

その日の夕方、本部の小会議室で西園寺との学習時間が始まった。神谷は自分の体験を素直に話した。

神谷:「西園寺さん、ChatGPTに『商品説明を書いてください』と頼んでみたんですが、期待していたものとは違う文章が出てきました」

西園寺:「どんな文章が出てきたの?」

神谷:「架空の商品について、一般的な説明が出ました。うちの商品のことを何も伝えていなかったので、当然といえば当然なんですが」

西園寺:「最初はそうなりがちなの。実はね、AIに『何を伝えるか』がとても大切なのよ。今日はそこを一緒に整理してみましょう」

プロンプトとは

あいまいなお願いを具体的なプロンプトに整えるとAIの回答が改善することを示す図解

西園寺:「AIに入力する指示や質問のことを『プロンプト』と呼ぶの。英語のpromptという言葉で、『促す』という意味があるのよ」

神谷:「プロンプト。聞いたことはあります。チャットに入力する文章のことですよね?」

西園寺:「そうね。ただ、プロンプトは単なる『お願い』ではないの。AIに対して、何をしてほしいのかを伝えるための入力全体のことを指しているのよ」

西園寺は、プロンプトを「仕事の指示書」にたとえて説明した。たとえば会社で後輩に仕事を頼むとき、「資料を作って」とだけ言っても、相手は何の資料をどんな形式で作ればいいか分からない。目的、対象者、期限、形式を伝えて初めて、期待に近いものが出てくる。

西園寺:「AIも同じなの。『商品説明を書いて』だけでは情報が足りないのよ。どの商品なのか、誰に向けた文章なのか、何文字くらいなのか、どんな雰囲気にしたいのか。そういった情報をプロンプトに含めることで、出力の質が変わるの」

神谷:「たしかに、後輩に仕事を頼むときも、具体的に伝えないとうまくいかないですよね」

西園寺:「いいたとえね。プロンプトは『AIへの仕事の指示書』だと思うと分かりやすいわね」

良いプロンプトの要素

良いプロンプトを構成する目的・背景・材料・条件・出力形式の5要素の図解

西園寺は、良いプロンプトに含めるべき要素を整理してくれた。

西園寺:「プロンプトに入れるとよい情報は、入門段階では大きく5つあるのよ。今日はまずこの5つを覚えましょう」

プロンプトの5つの要素(入門)

  • 目的 — 何のために書くのか(例:ECサイトに掲載する商品説明文を作りたい)
  • 背景 — 状況や前提条件、誰に向けた文章か(例:地域密着型の小売店のECサイト、子育て世帯のお客様向け)
  • 材料 — AIに渡す具体的な情報(例:商品名、特徴、価格帯)
  • 条件 — 制約やルール(例:200文字以内、丁寧な口調、専門用語は使わない)
  • 出力形式 — どんな形で出してほしいか(例:箇条書き、段落形式、見出し付き)

神谷:「こんなに伝えるべきことがあるんですね。僕は目的すら書いていませんでした」

西園寺:「最初はそうなることが多いのよ。でも、この5つを意識するだけで、AIの回答はかなり変わるの」

改善してみる

改善したプロンプトの結果を確認して神谷悠馬が少し嬉しそうにしている場面

神谷は西園寺のアドバイスを踏まえて、先ほどのプロンプトを書き直してみた。

改善後のプロンプト

「あなたはECサイトの商品説明を書くライターです。以下の商品について、子育て世帯のお客様向けに、親しみやすい口調で150文字程度の説明文を書いてください。商品名:国産ひのきのお弁当箱。特徴:軽くて丈夫、天然素材、子どもが持ちやすいサイズ。」

神谷:「西園寺さん、さっきとは全然違う文章が出てきました。ちゃんとうちの商品に合った説明文になっています」

西園寺:「よかったわね。目的、背景、材料、条件、出力形式を伝えたから、AIが神谷くんの意図に近い文章を生成できたのよ」

神谷:「プロンプトって、単に質問するだけじゃなくて、仕事の指示書なんですね」

西園寺:「その通りよ。そしてプロンプトの書き方を工夫することを『プロンプトエンジニアリング』と呼ぶの。エンジニアリングと言っても、プログラミングとは違って、言葉の使い方の工夫なのよ。練習すれば誰でも上達するわ」

神谷の心の声プロンプトエンジニアリングか。難しそうな名前だけど、要は「AIへの伝え方を工夫する」ということだな。これなら僕にもできそうだ。指示書を書く、と思えば気が楽になる。

5要素から4要素へ:呼称の橋渡し

入門5要素と実務4要素の対応関係を示す橋渡し図

神谷が安心しかけたところで、西園寺はもう一歩踏み込んだ話を始めた。

西園寺:「神谷くん、ここでちょっと先回りして伝えておきたいことがあるの。プロンプトの要素って、本やサイトによって数え方が違うのよ。今日教えた5つは『入門で全体像をつかむための整理』なんだけど、実務の現場では4つにまとめて呼ぶことも多いの」

神谷:「えっ、4つ……?数が違うんですか。覚え直しになるんでしょうか」

西園寺:「ううん、覚え直しではないの。中身はほとんど同じ。呼び方と切り分け方が少し違うだけなのよ。それを最初に知っておくと、後で別の本を読んだときに混乱しないわ」

西園寺はノートを開いて、対応関係を書き出してくれた。

入門5要素 ⇄ 実務4要素の対応

  • 目的(入門) → 目的(実務):何をしてほしいか。呼び方も中身もそのまま。
  • 背景(入門) → 対象(実務):「誰に向けたものか」「どんな前提か」に視点を寄せて統合。
  • 材料(入門) → 目的や条件の本文に溶かす:実務では別要素として立てず、指示文に直接書き込むことが多い。
  • 条件(入門) → 条件(実務):文字数・口調・禁止事項など。呼称はそのまま。
  • 出力形式(入門) → 形式(実務):呼び方を短くしただけ。中身は同じ。

神谷:「なるほど……。『材料』が独立した要素ではなくなって、指示の本文に組み込まれる、というのが大きな違いですね」

西園寺:「そう、よく気づいたわね。実務では商品名や数値といった『材料』はプロンプトの本文に直接書き込むほうが自然なの。だから要素として独立させずに、目的や条件の文の中に溶かして書くスタイルが定着しているのよ」

神谷:「それで4つになるんですね。目的・対象・条件・形式」

西園寺:「そう。生成AI活用コースの第1話でこの4要素を使って実例を組み立てるから、今日は『5と4は対応している』ということだけ持って帰ってくれれば十分よ」

神谷の心の声数が違うと聞いて一瞬焦ったけど、対応表で見ると同じことを言っていると分かった。「材料」が独立要素から本文に溶け込む——後輩への指示書でも、商品名はわざわざ別枠にせず文に混ぜて書くのと同じだ。呼び方の違いに振り回されず、本質を押さえておけばよさそうだ。

西園寺:「もうひとつだけ補足ね。本やサイトによっては『ロール』『前提情報』『例示』のように、もっと細かく分けることもあるの。でも、それも全部この大きな枠の中の話。数字に振り回されずに、『AIが迷わないだけの情報を渡せたか』という観点で見直すのが一番大事よ」

神谷:「数の違いで混乱しないように、と。覚えました。来年の子育て家庭応援フェアの商品説明文も、目的(フェア訴求)・対象(子育て世帯)・条件(文字数・口調)・形式(箇条書きか段落か)を整えるところから始めてみます」

西園寺:「いい当てはめね。フェアは『誰に届けたいか』がはっきりしている分、プロンプトを整えやすい題材なの」


📌 覚えるポイント

  • プロンプトとは、AIに対する入力全体のこと。単なる質問やお願いではなく『仕事の指示書』と捉えるとよい
  • 入門段階では、良いプロンプトの構成要素を『目的・背景・材料・条件・出力形式』の5つで覚えると整理しやすい
  • 実務の現場では、同じものを『目的・対象・条件・形式』の4要素にまとめて呼ぶことが多い(『材料』は別要素にせず本文に溶かす)
  • 5要素と4要素は呼び方と切り分け方が違うだけで、本質は同じ。資料によって数が違っても混乱しないこと
  • プロンプトの書き方を工夫することを『プロンプトエンジニアリング』と呼ぶ。プログラミングではなく、言葉の使い方の工夫であり、練習で誰でも上達する

📖 覚える用語

プロンプト
AIに対して入力する指示や質問の全体。目的・対象・条件・形式(と必要なら材料)を含めることで、AIの出力の質が向上する。英語のpromptは「促す」という意味。
プロンプトエンジニアリング
AIから望ましい出力を得るために、プロンプトの書き方を工夫すること。プログラミングとは異なり、自然言語での伝え方の技術。練習で誰でも上達できる。
入門5要素
良いプロンプトを構成する情報を、入門段階で全体像をつかむために5つに分けた整理。目的・背景・材料・条件・出力形式。要素ごとにラベル付けされているので最初の練習に向く。
実務4要素
プロンプトを実務でまとめる際によく使われる4つの軸。目的・対象・条件・形式。入門5要素の『背景』を『対象』に寄せ、『材料』は独立要素にせず本文へ書き込むスタイル。生成AI活用コース第1話で詳しく扱う。
ロール/前提情報
プロンプトの中で、AIに役割や前提条件を伝えること。「あなたは○○です」のような役割指定や、対象読者の設定など、出力を方向づける情報を指す。第2話の『コンテキスト(文脈)』とは別の概念。
📝 神谷の社長報告メモ
今日学んだこと
プロンプトはAIへの仕事の指示書。入門では『目的・背景・材料・条件・出力形式』の5要素で整理し、実務では『目的・対象・条件・形式』の4要素にまとめる場合が多い。呼び方は違っても本質は同じ。
自分で試したこと
「商品説明を書いて」という曖昧なプロンプトでは期待通りにならなかったが、5つの要素を入れて改善したら、まるやまマートの商品に合った文章が出てきた。
気をつけること
資料によって要素の数え方が違っても惑わされない。『AIが迷わないだけの情報を渡せたか』を見直すのが本質。AIが作った文章はそのまま使わず、必ず人が確認する。

まとめ

プロンプトは「お願い」ではなく「指示書」。要素の数え方は資料によって5つだったり4つだったりするけれど、伝えていることは同じ。数字より、AIが迷わないだけの情報を渡せたかを見直そう。